【抄録】
良好な子どもの口腔育成には、正しい咀嚼や嚥下、食行動の学習、それらを支える体幹や姿勢など基本的な生活習慣の確立が重要である。しかし、一般的に子どもが歯科医院に訪れるのは歯が萌出した後が多く、支援の機会を逸することが少なくない。そこで、当院で行っている「0から2歳児のための歯科室」では、歯が萌出する前から歯科医療機関にてう蝕や歯ならびはもとより、子どもの成育全般に対し良好な生活習慣の確立をめざし、定期通院を基本とした予防歯科医療を提供している。今回は、この歯科室に訪れた親子の様子を供覧する。
乳幼児期は、首すわり前のねんねの状態から、寝返り、四つ這い、独歩のような人生で最も短時間の間に著しい身体変化を起こす。また、成育には個人差が大きく、月齢や身体の発育状況と、歯の萌出状態、口腔機能発達などにズレが生ずることもある。子育てには不安がつきものであるが、特にこの時期は哺乳から離乳への移行期であり、子どもの食行動について、数週間から数カ月のズレが育児者を不安な気持ちにさせてしまったり、逆に問題を見過ごしてしまったりする。乳幼児の身体や口腔内の状態に沿った食育指導法、正しい顎位と顎運動の育成法を伝え、個別対応にて正しい育成サポートをする意義は歯科医療現場で必要性が高まっている。
味覚や摂食の調節機能、睡眠リズム、歯みがきや指しゃぶりなどの口腔感覚の基礎もこの時期に確立される。カリエスマネジメントにおいても、歯の萌出前から保育者に情報の提供を行ない、う蝕の進行ステージごとのメインテナンスのスタートと継続を促す。この大切な人生のスタートに歯科衛生士の関わりは、子どもたちが正しい生活習慣を獲得し、カリエスフリーのまま、生涯にわたる健やかなライフステージをあゆむための重要な意義を持つ。