【抄録】
「患者さんのモチベーションを高める」ことに対して、「難しい」と感じている医療者も多いのではないだろうか。私も数年前までは、多くの患者さんに接すれば接するほど、対応の限界を感じることが多かった。
歯科医療において、患者さんの口腔内への興味を引き出し、行動変容を促すことが、全身疾患の回避や健康寿命を延ばすことに寄与できる、というのは周知の事実である。しかし、私は日常臨床において、自身の治療技術はもとより、患者さんの行動変容をスムーズに促すことができない現実に直面したとき、早急に改善したい衝動に駆られた。私が目の前の患者さんの行動変容を諦めてしまった場合、この先の未来で「いつ・誰が」口腔内の健康を伝えるのだろう、その方は健康になる絶好のチャンスを失うことになるのでは、と危惧したからである。
そこで、私は言葉や人間の心理について本格的に学び、現場での実践を通して多くの気づきを得た。特に驚いたことは、人間の心と行動に「言葉」が多大な影響を与えること、自身の考え方や言葉を変えることで、患者さんの反応が大きく変化することである。そして、これまで「うまくいかない」と感じていたことの多くは「自分のコミュニケーションに問題があった」という結論に至り、猛省した。
今回は、「モチベーションが上がらない本当の理由」、「モチベーションを下げてしまう”NG”の伝え方と”響く”伝え方」など、私の経験や臨床現場でよく見かける事例を用いて、具体的な言葉の使い方のコツを解説する。「簡単で・効果的」な伝え方を知ることで、患者さんとさらに深い信頼関係を築き、毎日のコミュニケーションが楽しく、ストレスフリーになることを切に願っている。本講演を通して、「ほんの少しの伝え方の違いが、大きな差を生むこともある」ということを、実感していただきたいと思う。私が重要だと考える”7つの秘訣”について皆さんと一緒に考え深め、明日からの臨床でお役に立つことができれば幸いである。